メディア用語の中にはあまりにも一般的になり、その本当の意味を見失うことがあります。Impression(インプレッション)はその良い例です。誰もがインプレッションという言葉の意味を知っており、言葉自体も数十年使われています。しかし包括的なメディア測定という文脈でインプレッションがより広義に使われている現在、言葉の意味の変化を考慮する余地があるのではないでしょうか。
いいえ、インプレッションという言葉の意味は、当初から変化していません。
大前提として、インプレッションという言葉は、コンテンツや広告を見るという行為そのものを指すのだということに、まず同意してください。1990年代初期、インプレッションはオンラインパブリッシャーが広告主に対し、広告主のバナー広告の視聴者数を報告するために使われ始めました。現在では、メディア業界はこの言葉をより広く使用しており、その使用は、包括的かつ独立した測定・検証基準に裏付けられています。このような経緯を踏まえても、この言葉は、コンテンツや広告を見た人を指す言葉であることに変わりはありません。
この言葉の普遍的な適用性こそが、特に消費者がデバイスやプラットフォームを問わず、自分のスケジュールに合わせてコンテンツを消費するようになった今、インプレッションが偉大なイコライザーである理由なのです。また、このような消費者のコンテンツ接触行動により、メディア業界はインプレッションベースの売買への移行が進んでおり、以前からその動きは加速していました。今年、ニールセンのローカルテレビ視聴測定にブロードバンド視聴のみの世帯が加えられたことにより、米国のローカルテレビ市場では、インプレッションベースの広告枠取引が採用されています。
Nielsen ONE 実現に向けての移行過程において、メディア業界ではリニア(番組表に沿って番組が放送される従来のテレビ放送)とデジタルの完全な比較可能性が実現し、測定においてもその完全性や代表性が担保されるようになるでしょう。さらには、分単位以下の比較可能な測定が可能になります。
インプレッションの前提は単純ですが、インプレッションを構成する要素には複雑なレイヤーが存在します。比較可能なクロスメディア測定にとって、インプレッションベースへの移行は、コンテンツが実在する「人」に視聴されたかどうか(ビューアビリティ)についての判定基準に依存することを意味します。
歴史的にデジタルプラットフォームでは、ファーストビュー以外のエリアに掲載される広告、レンダリングされていない広告、スキップが可能な広告などの存在により、ビューアビリティは検討事項として取り扱われてきました。しかしプラットフォームを横断する消費者の視聴行動により、デジタルとリニアは急速に収束してきています。このような状況下において、リニアテレビ番組を視聴するための有料のケーブルケーブル放送加入は不要となり、消費者は特定のCTVアプリケーションで広告をスキップすることができ、広告主はスマートテレビの普及に伴い、プログラマティック技術の利用を増やし続けています。
ビューアビリティの基準は長年にわたって進化してきましたが、つい最近まで、その進化は個々のプラットフォームに関係していました。リニアとデジタルの橋渡しをするために、いくつかのクロスメディアの視聴者測定基準が登場しました。それらの基準によると、クロスプラットフォームでのビューアビリティは、スクリーン上でコンテンツのピクセルの100%が2秒間連続して画面上で視聴されることを意味しています。また、この基準では、テレビ番組が100%のピクセルで配信されることを前提としています。
全国テレビ放送を含めてメディア業界では長年にわたりインプレッションを使用してきましたが、完全かつ比較可能なクロスメディア測定のためにインプレッションに移行することは重要なステップと言えます。移行は既に実施、理解されている基礎指標をベースに進められますが、完全な適用に向けては調整が必要となるでしょう。
また、この測定をスタジオ制作とクリエイター制作の両方のコンテンツに適用することは、コンテンツ制作や「品質」のばらつきという理由で調整が必要になることが予測されます。品質は視聴者や広告主によって判断され、ブランドや企業は安全なコンテンツの見極めにDoubleVerifyやIAS のようなツールを利用し、広告の掲載先を決定するためのフィルター使用するようになるでしょう。フィルターは広告主によって異なるかもしれませんが、業界として基本的な基準を設ける必要があり、ニールセンは販売サイドとも協力してこの測定に取り込んでいきたいと考えています。
想定の範囲内であったとしても、変化に対しては多少の抵抗や疑問が生じることが予想されますが、将来的な基盤は既に存在し、さらには業界にはビューアビリティへの疑問に対処する基準が既にあることにより解決できでしょう。しかし、業界全体が新たなクロスメディア測定に完全に対応するまでには、ある程度の時間がかかるでしょう。
今後、新測定への移行過程において、コマーシャル時間帯の分当たり平均視聴率は引き続きリニアテレビ視聴測定の一部として提供されます。しかし、クロスプラットフォームに対する真の比較可能性が実現のために、ブランドや企業、および広告代理店は 個別コマーシャル指標(Individual Commercial Metrics) を用いて、オムニチャネル広告キャンペーンの活性化や最適化を行えるようになります。
ブランド、企業、広告代理店が新測定に向けた移行を進める中、異なる測定ソースからのインプレッションには品質にばらつきがあることを理解することが重要です。インプレッションの品質は、包括的かつ個人レベルでの代表性に左右されます。代表性という視点でインプレッションと視聴率を比較すると、正確性の高い測定の提供という点では、インプレッションが優位になります。
総利用者に占める比率を提供する視聴率ベースの測定とは異なり、インプレッションは広告が視聴者に表示された実際の回数を反映します。これが意味することは:
- 広告主は、最も関心のある消費者とのエンゲージメントを深めることができます
- 番組パフォーマンス測定の正確性が高まる(例:端数の丸めによる視聴者の増減が排除される)
メディア業界の全ての関係者にとって、メディアに対する消費者エンゲージメントを理解することの重要性は、かつてないほど高まっています。コネクティビティ、デバイスやプラットフォームの普及、個人の選択により、消費者には無限の選択肢があるように見えますが、その選択に影響されない測定の必要性を高めています。リニアとデジタルの世界の収束に伴い、測定のベースはインプレッションへと移行します。インプレッションを最大限に活用するためには、インプレッションが代表性のある測定値を提供するための品質が重要になります。インプレッションという言葉の定義は一つですが、インプレッションは、その裏付けとなるデータがあって初めて成り立つものです。
This article originally appeared on Broadcasting+Cable.